残しておきたい道具たち
山陰地方の汽水湖沼である中海では、つい50年ほど前まで、海草類アマモを肥料用に採集していました(写真館「あまりにもふつうのことだったから」をご覧下さい)。
中海は島根県と鳥取県にまたがっていて、島根県側ではアマモは自家消費用に小規模に採取されていたのに対し、鳥取県側ではアマモ採取専用の船もあり、動力船で外海まで採りに行った専業者もいました。この船はアマモ採取専用船です。
中海の鳥取県側は弓ヶ浜半島という砂州で、肥料分の少ない畑で綿を栽培するために、大量のアマモを鋤込んでいたようです。アマモは船一艘分いくらにするかを浜辺で購入者と直接取り引きしていました。買い取ったアマモは一番下の写真の大八車(分解されてます)に載せて畑まで運びました。
アマモは鋤のような道具を船から曳いて採取されていました。良く似た形で小型のものが、地元ではアカガイと呼んでいた、サルボウの桁です。サルボウの場合は鋤の後ろに網を取り付け、湖底を鋤いて出てきた貝を集める仕組みでした。
これらの船や桁などは、有志によって廃校になった小学校や閉鎖された公民館などに保管されていますが、我々がいなくなったら廃棄されてしまうのではないかと、既に高齢の有志の方々は不安に思っています。かつて中海で行われた漁業、採草業の姿を彷彿とさせる道具類。美術工芸品のような豪華な美しさはありませんが、自然の仕組みを観察し、その合理的な利用を追求した無駄のない美しさが感じられます。